とよひら白書プロジェクト、動き出しました〈1.すぼ豆腐〉

みなさんには、忘れられない思い出の食べものはありますか?
私にとってのそれは、祖母が作ってくれていた大根の漬物です。祖母が亡くなった今、その味に出合えることはもうありません。元気なうちに作り方を教わっておけばよかった、また食べたい、と、冬が来るたびに胸がきゅっとなります。
実は、里山にも同じように失われつつある味があります。
ひろしま自然学校のある中国山地の中山間地域は、日本のなかでも過疎・高齢化が特に進んでいる地域です。人が減るにつれ、暮らしを支えてきた文化や知恵も静かに消えつつあります。そこで、昔から大切に伝え継がれてきた地域の記憶を形に残し、今の暮らしに生かせる知恵として学びなおす取り組みを始めることにしました。それが「とよひら白書プロジェクト」です。まずは最初の一歩として、「食文化」を入り口に、地域の方への聞き取りを始めました。
先日は、北広島町内にある西楽寺さんを訪ね、“すぼ豆腐”についてお話を聞かせて頂きました。耳慣れない料理名ですが、すぼ豆腐とは、甘めのお出汁で煮込む豆腐料理のことです。その下ごしらえに意外な手間が隠されていました。
用意されていたのは藁と豆腐。藁を敷き、その上に豆腐を並べ、藁で包むようにして縛ります。強すぎず、緩すぎず、絶妙な力加減で藁を締め、それを縦に吊るしてじっくり水分を抜いていきます。2 時間ほどで、しっかり水切りされた弾力のある固い豆腐になります 。その豆腐を甘いお出汁でじっくり煮込み、味と色が染み込んだころに完成です 。ほかほかの温かさと、甘めのお出汁が口いっぱいに広がり、思わずはあ~と声が出てしまう、ほっとするお料理でした。




昔は地域でよく作られていたそうですが、今では西楽寺さんだけが作り続けておられ、その西楽寺さんでも今回は数年ぶりの機会だったそうです。長い藁が手に入らなくなったことも、作られなくなった理由のひとつだそうです。
この日は他にも、西楽寺さんで長く作られてきた特徴的な豆ごはん、冬瓜や大根の煮物、漬物、渋を抜いた柿、たくさんのごちそうを振る舞っていただきました。皆さんとお話をしながら食卓を囲んでいると、心と体が緩み、穏やかな時間があっという間に過ぎていきました。



地域とお寺との関わり、お寺で振る舞われていた食事のことなども伺うことができました。双方がどのようにつながり、支え合ってきたのか。地域の暮らしにどのような営みがあったのか。丁寧に受け継がれてきた時間の流れに触れたことは、私にとっては知らないことばかりで、発見の連続でした。そして、大切に受け渡されてきた記憶が、確実に失われつつあるのだと、切なく思う日でもありました。
この気持ちを忘れないようにしたいと感じました。

「とよひら白書プロジェクト」は、こうした里山文化の記憶を記録し、文化のレッドデータブックを作るために動き出しています。昔からの知恵を残し、今の生活にも取り入れていく。そのことが、読んでくださっている方にも、届いたら嬉しいです 。
興味を持たれた方は、ぜひ活動の仲間に加わりませんか?
最後になりましたが、西楽寺さん、教えてくださったみなさん、心があたたまるおもてなしを本当にありがとうございました。次の活動報告もおたのしみに!

西綾奈

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